真っ暗な世界で
目が使えない分、ほかの耳や鼻が使えるようになったし、他人が思うほど、不自由はしていない。


今日は私の両親の結婚記念日。家族で富良野に日帰り旅行をするようだ。行き先は、私の家から片道2時間の目の前にラベンダー畑がある旅館。


露天風呂に入れば、ほのかにラベンダーの香りがして、私にとってお気に入りの場所の一つである。


いくら夏といえども、北海道の夏は比較的涼しい。適当に手に当たった上着を羽織り、最低限の荷物を持ってリビングへ向かった。


「榛ー!行くわよ?」


「怪我、しないようにな」


「……今、行く」


明るく温かい母と、寡黙であるが優しい父。


こんな欠陥だらけの私に愛情をくれる大切な家族。


この温もりがずっとあればいい。


毎日、私は薄らぼんやりとそんな小さな幸せを願っていた。


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