真っ暗な世界で
結果から言う。


僕が勝った。


でも、あまり気持ちのいい勝ちじゃない。


春くんは僕の竹刀を何回も何回も受け止めた。


僕の組の隊士は、僕の竹刀を視界に捉えることすら出来ないのに。


あと、一つ、引っ掛かったこと。


彼は、ずっと、僕を見ているようで、見ていなかった。


早速そのことを一人になった土方さんに報告する。


「…そのことか。俺もずっと不自然に感じていたんだ。やましいことがあるからなのか………?」


「それも、少し変ですよね。だったら、何で試合のときくらい、相手を見ないのでしょうか」


「あぁ……あいつと二人でいるときもまったくあいつから殺気と言うものを感じなかった」


うーん……と腕を組み、考え始める土方さん。


殺気を感じなかった、なんて。ほんとに、ただの少年なだけなのかな?


でも、剣筋は悪くない。磨けばたちまち良くなるだろう。ここまで期待できるような子は初めてだ。


君は一体、誰だ。


「取り敢えず、近藤さんを呼んでくる。入隊試験は無事、合格だと」


「あ、はい。分かりました」


土方さんは去っていった。


土方さんの後ろ姿をみて、ふと思い出した。


………投げた竹刀を投げたとき、春くんは、竹刀を直前になるまで僕のほうをみなかった。


もしかしたら………………



僕の脳裏に過った可能性。


それだと、綺麗な筋が通るけど、本人に確認しないとどうしようもなかった。


だけど、僕の推測が正しいのならば、先程の試合、意味合いが違ってくる。


………久し振りに骨のあるやつが来たかも。


それだけでニヤニヤしてきた。


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