真っ暗な世界で
「春、こんな所にいたのか」


土方さんが私にそう言うのと同じタイミングで足音が近づいてきた。


「どうかしましたか、土方さん」


私は声がした方を向いてお辞儀をする。


「いや、用って程でもないんだけどよ」


「……?」


土方さんには珍しく、言葉に困っている。私は珍しさと土方さんがこれから言う言葉を予想することが出来ないことで首を傾げた。


「お前は…その……まだ、話すつもりはねぇのか?原田達に。……目が見えないことを」


「…あぁ、そのことですか」


私は入隊した時に近藤さん、沖田さん、土方さんにあるお願いをした。


それは、


『他の幹部、隊士たちには目が見えないことを秘密にして欲しい』


これは、自分のためだった。


彼らにバレないように生活することは、私にとって、不貞浪士に出くわしたときにどれだけ相手を欺くことが出来るか、どれだけ一般人に紛れられるか、を鍛えるのに最適な訓練になるから。


敵を騙すには、まず味方からというやつだ。


「えぇ、ありませんよ」


「そうか…」


「お茶をお出ししましょうか。今日は冷えますからね」


「あぁ。頼む」


土方さんは気まずそうにそれだけ言うと歩き出した。段々と足音が遠のいていく。


私も、お茶を入れるべく台所へと向かった。




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