真っ暗な世界で
「最近、『照屋』という遊郭に長州藩士が頻繁に出入りしているそうだ。女将に話は着けている。明日から行けるか?」


そう言って、土方さんは私の手に文を握らせる。この場合、この文は女将様に渡すものだ。


「御意」


私は頷き、その文を懐にしまった。


「明日、夜明けと共にここを女姿で出ろ。門番は、斎藤と原田に頼む。くれぐれも平隊士に見つかるな」


声を抑え、早口で私に注意する。


「分かっています。その注意は何度目ですか。俺も、子供じゃありませんよ」


そういうと、土方さんは鼻で笑った。


「何言ってんだ。14なんてまだまだ餓鬼だ。精神的には大人びてるけどな」


…………土方さんはとんだ勘違いをしているらしい。


そこまで、子供に見えますか。土方さん。


「……俺、17ですが」


「……………………嘘つくなよ」


「いえ、本当ですって」


「…………………嘘つくなって」


「いえ、だから、本当に17なんですよ」


「………背、ちびっこいのに?」


「それは、幹部の皆様に比べたら小さいでしょう」


だって、声が落ちてくるところがみんな大体175cmくらいのところなんだもん。


それに比べて私は146cm。約30cmの差がある。


…………ま、まぁ、子供には見えるかも知れないが、それを認めてしまうのは私の小さなプライドが許さないので、認めないことにする。


「……………本気か?」


「本気です」


暫く、土方さんは黙り込む。


何か考え込んでいるのか、事態を飲み込むのに手こずっているのかは分からないけど、明らかに動揺してるのは分かる。


それから2分ほど経ったあと、土方さんは静かに私の肩を軽く叩いて、


「す、すまねぇ。ずっと14の餓鬼だと思ってた」


「いいえ」


わたし達の間になんとなく気まずい雰囲気が流れ始めた。


< 42 / 195 >

この作品をシェア

pagetop