真っ暗な世界で
「名を、伺ってもよろしいかい?」


近藤さんが穏やかな口調で少女に訪ねた。


「普通、先に名乗ってから聞くものじゃない?」


「てめぇ…!近藤さんにっ……!」


その生意気な態度が土方さんの逆鱗に触れたよう。


掴みかかろうとしたところを私は必死に押さえた。


「土方さんっ!!」


「トシ!!」


「…………チッ、離せ」


後一歩のところを近藤さんの制止で思いとどまる土方さん。


「彼女の言う事にも一理ある。すまないね、私は新選組局長、近藤勇だ」


「…………咲洲玲那」


咲洲……玲那……ね。


「君は、どこから来たのかな??」


「…………………」


「なんか答えたらどうなの?」


「あんさぁ、今、何年??」


咲洲玲那の発言にポカンとする幹部一同。


内心、クスッと笑って無邪気そうに私が言った。


「文久2年だよ」


ニコッと咲洲玲那がいるであろうところに向かってほほえんだ。


「…………今から話す話はうそじゃない」


何かを話す決意をしたらしい。余計なことは言わなきゃいいけど。馬鹿そうだからこれからのことまで言いそう。


警戒しながら彼女の話を聞いた。


彼女は、未来から来たことを説明するために芹沢さんの暗殺を話した。


新選組の幹部以外知りえないものを知っているということで、未来から来たという話は一応、信じてもらえたらしい。これからのことは何も言わなかった。


「トシ………、この子を此処に置かないかい!?」


「どうしてそうなる!近藤さん!?」


「未来から来たというのが真ならば、咲洲くんは帰るところがないではないか!」


「だからってなぁ……」


「いいよ、私、一人で生きていけるし」


いつかの如く近藤さんと土方さんが口論していると、冷たい口調で咲洲玲那が言った。


この時代で一人で生きていける…??そんなことできる訳ないじゃない。いや、この時代だけじゃない。平成の世だって、一人じゃ生きていけないのに。


それに、新選組がやすやすとあなたみたいな危険因子を手放すとは思えない。ここから出して、長州の人たちに囲われた時。その人たちに情が移ったらあなたは新選組の歴史を教えかねない。


逆に新選組に情が移ったら、長州の歴史を新選組に教えてくれる。


…………あなたはもう、新選組の駒なのよ。


もっとも、近藤さんを始め、ほとんどの幹部の人たちはそんなこと微塵も思ってないと思うけどね。


顔に出すことは出来ないから、表面は心配そうな顔をして、心で彼女を嘲笑した。



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