真っ暗な世界で
「………おい、起きろ」


誰かに揺すられて目を覚ます。


「………貴方は?」


知らない声と雰囲気に、とっさに目が見えているようなフリをする。


「女将は今、忙しい。代わりに俺が来た。事情は知っている。目が見えているフリはしなくていい」


「………そう、ですか」


「さっさと着替え。すぐに回る」


「はい」


頷いてみせたものの、男は一向に去る素振りを見せない。


「なに、ボケっとしてんだ。着付けは俺がやる決まりだ。こっちにこい」


無愛想にそう言うと強引に私の手を引っ張った。


「っ………」


それに足が縺れて、転びそうになった。


「危なっかしいな……」


フワリと私を持ち上げてそれを助けてくれる。


抱き上げられる………というより、宙に浮くということが苦手だ。地に足がつかないことに底知れない恐怖を抱く。


「あ、ありがとうございます……降ろして下さい」


「………ん?あ?抱き上げられるの、怖かったか?」


わりぃな、と私をゆっくりと降ろす男。


この男、なぜ私の思ったことが分かったんだろう。


そんなこと、答えは簡単。


私が酷く震えてるから。


「ほら、眼帯」


着付けをする直前、唐突に手に置かれた眼帯。この手触りはきっと、革かな。


「ありがとうございます」


それをパパッとつけて、大人しく着付けをされた。






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