真っ暗な世界で
「………なぁ、春」


「なんでしょうか」


私の入れたお茶を一口飲んだ後、土方さんが思い詰めたように私に問いかけた。


「咲洲が未来から来たって話、信じてるか?」


「信じてはいません。ですが、あの話を知っているのは俺と幹部のみ。何処かから漏れたとも考えにくい。ならば、信じざるを得ないとも思います」


「そうだよな……」


土方さんは私の言葉を頭の中で反芻するように呟いた。



「今、山崎にあいつの身元を調べさせている。もし、何も出てこなければあの話は信じるしかねぇ。となれば……」


土方さんが一度切った言葉を私が繋げて呟いた。


若干怪しく口角をあげながら。きっと、土方さんも同じように笑っているのだろう。


私の考えと土方さんの考えの答え合わせをする。


「利用することが可能」



「そうだ。あいつは俺たちの行く末を知っている。ってことは長州の奴らの行動も知っているはずだ」


ククク……と可笑しそうに笑う土方さん。私はそれを無表情で聞いていた。


「そういえば春の笑ったとこ、見たことねぇな。さっきみたいな悪人面した笑顔しか見たことねぇ」


悪人面って……。


まずそこを突っ込みたくなったけど、自覚があるので何も言えない。


「元々、笑いませんから」


「ふーん、見てみたいな」


「それは嫌です」


「どうしてだ?」


「俺が普通に笑う時は、いまわの際のときですから」


「そりゃ、立派な死に際だな」


私が言ったことが面白かったのか、土方さんはククク……と心底愉快そうに笑った。


「今日はもう寝る。春も寝ろ」


布団はすでに敷いてあったのか、ゴソゴソを動く土方さん。


私は灯りのところへ行き、火をフッと消した。


「お休みなさい、土方さん」


「おう」


土方さんの返事を聞きながら土方さんの部屋を出て、数日ぶりに自分の部屋へと戻った。


…………といっても土方さんの左隣の部屋だけど。


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