真っ暗な世界で
台所に着けば、まずは最初にお米を研ぐ。その量10合。いや、まだあるかもしれない。


お米を炊いて、時々様子を見ながらその間に味噌汁を作る。今日は大根の味噌汁だ。


あとは魚を焼いて、ほうれん草のおひたし、甘煮をつくって盛り付ける。


それが終わる頃にはご飯はちょうどいい具合に炊けているので、火を強い風を起こして消す。


周りのものが見えない分、危険が多いけれど、料理が好きだし、一人で作業出来るこの時間は好き。


あとは味噌汁にお味噌を入れて終わり。


味噌を入れ終わり、ご飯を全員分盛っていこうとした瞬間、何処か……いや、土方さんの部屋から大声が聞こえてきた。


「さーきーしーまァァァ!待てゴルァァァア!!」


「アハハハハッ!知れば迷い、知らねば迷わぬ恋の道ぃ~!!」


「ぶっっっ殺す!!!!」


さっき咲洲玲那が読んでいた句は、土方さんが趣味で詠んだもの。そう、『豊玉発句集』だ。


土方さんの唯一の趣味で唯一の弱み。見た者にはその名の通り鬼が刀を片手に鬼ごっこをしてくれる。


捕まればもれなく鬼に地獄を見せられる。


それを免れているのはただ一人。沖田さんだ。


その声は段々とこちらに近づいて来る。


こちらに来られると色々と困る。


ホコリが舞うと折角のご飯が台無しになってしまう。


それに、土方さんが鬼ごっこしている時の足の速さは最早人智を超えるもの。


もしかしたら、100mを9秒台で走る人類最速の男に匹敵しそう。


そんなものが隊士たちの食事が積み重なった通ったら………


ほとんどが音を立てて崩れるに違いない。食品の無駄。私の努力が水の泡。


そういうことで、ここを通る前に咲洲玲那には捕まって頂こう。


私は包丁を片手に声が聞こえる方の台所の入り口に隠れて立ち、二人が来るのを待った。













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