真っ暗な世界で
すべての仕度が終われば、次は広場に隊士の分の食事を持って行かなければならない。さすがにそれは私一人では出来ないので、適当に隊士を捕まえて手伝わせる。


「え?運ぶ?えー………ことわ…」


「やって頂けますね?」


「…………………ハイ。ヨロコンデ」


ニッコリと微笑むと、隊士は喜んでやってくれる。


(決して脅しなどではない。少し笑顔が黒いかもしれないが。)


その間に私は幹部のご飯を運ぶ。


幹部が食べる部屋は平隊士とは違い、少し狭い(幹部が食べるのには十分広いが)広間で食べる。


今でこそ普通に持っていけるようになったが、最初の頃はガタガタと震えながら運んでいた。


そして、やっと朝餉の時間を迎えるのだ。


「おはようございます」


「おう!はよっ!」


最初に入ってくるのは永倉さんと藤堂さん。少し遅れて原田さん。


この3人は本当にご飯が大好きでしょっちゅうオカズの取り合いをしているので、この3人にはいつも頭を抱えている。


「おはよ、春くん」


次に入ってくるのは沖田さん。足音は二人分ある。咲洲と一緒に来たんだろう。


それに続いて斎藤さん、井上さん、山南さんが入ってくる。


「おはよう、ハル君!今日も可愛いっ!最近見なくて寂しかったよ」


そう言って私を抱きしめようと走り寄ってくるのは武田……さん。主に心の中では武田と呼び捨てにしている。


彼は男色………だ。


何故か私を気に入ったらしく、彼の食事を取る部屋はここではないのに、毎日こちらに来る。


私は抱き締められる直前に伸ばしているその腕を掴み、背中の方に捻る。


「おはようございます、沖田さん、斎藤さん、井上さん、山南さん」


武田が大声でいだだだだだ!!やめてっ!私のことは無視かい!?と叫んでいるのは聞こえていない。


「おはよう、春」


「おはようございます。土方さん」


「おはようっ、春君っ!」


「おはようございます、局長」


局長が来ればこの部屋のメンバーは全員集まる。


武田も、食事を取る部屋にしぶしぶ戻っていく。


そして、局長の一言があり


「それではっ、いただきます!」


「いただきます」


一斉にそう言えば、騒がしい朝食が始まる。


「あー!!新八さんっ!俺の魚とんなっ!!」


「うっせぇよ!平助が隙を見せるのがいけねぇんだ!」


「なんだよ、それ………ってあ!!」


「ほら、平助。隙がありまくりだ」


「返せよぉー!!」


「やぁーなこった!」


「って、佐之!さり気なく俺の甘煮取るんじゃねぇ!」


「新八も、まだまだってことだよ」


……………どうしてなの。


オカズの争奪戦はオカズが少ないからだと思い、彼らのは他の人より少しばかり多くしているのに、一向にこの争奪戦に終止符を打たれる気配がない。


今日に至ってはいつもよりも過激になっている感が否めない。


もう少し静かに食べることは出来ないんだろうか。


そう思いながら、黙々と箸を進める。


行動するのは今じゃない。


「…………春、行け」


「御意」


土方さんの怒りの出撃命令が出てからだ。





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