真っ暗な世界で
「……今は何年何月何日?」


「……文久2年、文月10日」


文久2年……たしか、1862年だったかな。


えっと、152年前かな?本当に、タイムスリップしてしまったんだ。


実感はない。まぁ、当たり前なのかもしれないが。


「……そう。ありがとう」


「……それだけか?」


「うん」


「そうか」


男は疲れ果てたように呟いた。


私はそれに油断していた。


手のひらから足を離すと、ガッと男の手が私のくるぶしを掴んで、手前に引っ張った。


「……っ!?かはっ……」


あまりに突然のことで、私は抵抗も出来ずに、地面に叩きつけられる。その拍子に私は刀を手放した。


「よくも、よくも、俺にぃ……!!」


私が倒れた間に私に馬乗りになった男が雰囲気に狂気を纏わせて私の首をしめる。その力は強く、私の力じゃ外せない。


首から上が圧迫されて、頭が痛い。息が出来ない。苦しい。


私の目から生理的な涙が一粒、流れる。


私の、真っ暗な世界に靄がかかり、やがて真っ白になっていく。


……死んじゃうの?


そう思って瞼を閉じる。


そうすると、どこからか、声が聞こえてきた。


『───……ちゃん』


──……誰?


『─……榛ちゃん』


その声は、昔に聞いたことのある声だった。


夏希、ちゃん……?


『生きて、生きて。私の分まで生きて』


当時6歳だった私と、7歳だったあの子の、唯一守ることのできる約束。


私に出来る、唯一の償い。


そうだ、私は生きなきゃならない。あの子の分まで。


なくなりかけていた意識を無理矢理たぐりよせ、重くなっていた瞼をあげた。


そして、首に巻き付いている手を思い切り引っ掻いた。


「うわっ……!!」


男は痛みで、首から手を引く。


「ぐっ!ごほっ、がはっ……」


だけど、油断はならない。


何か、攻撃出来るものっ……。


男が怯んでいるうちに、地面に手をつけて探した。


すると、右手に木の棒のようなものが当たった。


……この手触り……刀だっ!!


私が刀を手に取るのと同時に、男がまた襲いかかってきた。


「ぐっ……!このクソガキぃぃぃぃい!!!」


無我夢中で男の声がする方へ振り上げた。


ドスッ


何かにぶつかり、私の腕と刀が止まる。


「ギャッ!!」


男は短い悲鳴をあげて、ドスンと地面に倒れた。


私はゆっくりと刀を持っていた腕を降ろす。


そして、安堵からか、地面にへたり込んだ


「はぁっはぁっはぁっ……」


頭が痛い。クラクラする。


5分程して、息が整うと、状況を把握しようと動き出した。


血の匂いは……しない。斬ってはいないようだ。気絶、してるのかな?


その男の体を探し、心臓の位置に手をやり、確認した。本来聞こえるはずの命の鼓動が聞こえない。次に、心臓から身体を伝って口元に手を当てて呼吸を確認するが、いくら待てども呼吸は確認できない。


それが意味するのは、彼が死んでいるという事実。


「うそ……」








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