真っ暗な世界で
今日は6日後にある新選組襲撃にそなえて、新しい刀を晩ごはんの材料を買うついでに買いに行こうと思う。


今まで使っていた刀は最初に会った浪士から頂戴したものだが、手入れが悪く、最近切れ味が悪くなってきた。もう、刃がボロボロ。むしろ、半年持ったことが驚きだ。


「斎藤さん。少し宜しいですか?」


「春か、どうした」


斎藤さんはたしか今日は非番だった。刀に詳しい斎藤さんについて来てもらうことにしよう。


「新しい刀を買おうと思いまして。刀に詳しい斎藤さんにご同行願いたいのです」


「なるほど。ついていこう」


斎藤さんはこちらが少しビックリするくらいに快諾してくれた。


……………斎藤さん、少し嬉しい?


そう思ったのは、斎藤さんの雰囲気が僅かながら明るく、軽いものになったから。


鍛冶屋でたくさんの刀を見ることが楽しいのだろう。女子校生が服屋ではしゃぐみたいに。


……………これは斎藤さんに少し失礼か。


食料を入れるための籠をもって斎藤さんと一緒に街に出掛けた。


「春、この刀はどうだ」


鍛冶屋に行き、斎藤さんがいくつかの刀を選んで私の手に乗せてくれる。


どれも良いものなんだけれど、どこかしっくり来ない。試しに鞘から出して一振りしてみてもどこか違う。


「………なんだか…違います」


「そうか…………」


困り果ててしまったのか、周りを見渡したらしい。しばらくの沈黙の後、斎藤さんの纏う雰囲気が激変した。


「春!これはどうだ!」


「これ……とは…」


手渡されたのは、今まで手に取った刀よりも少し軽かった。


柄を握ってみる。悪くない。むしろ、良い。また、鞘から取り出し、一振りしてみる。


「…………これです…。これにします」


「この硬さ、しなり具合………久々に見る…名刀だ」


斎藤さんが興奮しているのが手に取るようにわかる。


という私も少し興奮している。こんなにフィットする刀があるなんて思ってなかったから。


刀はそれに決め、夕食は何にするか、お礼として斎藤さんの要望を聞く事にした。




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