真っ暗な世界で
「そうだな……。……鍋がいい」


「鍋ですか。了解です」


斎藤さんの要望を聞きながら、鍋の具材を買っている途中、


……………習慣で買い物したけれど、女中がいるなら、私は料理しなくてもいいんじゃ…?


ふと、そう思い、斎藤さんに聞いてみると、普段、雰囲気をほとんど変えない斎藤さんが、思い切り焦った素振りを見せた。


「あ……いや、あー。咲洲の料理は、駄目だ。兵器になる。見た目も匂いも味もこの世の物とは思えんものばかりだ」


……相当、想像を絶するような不味さだった、と言うことか。


土方さんも咲洲のお茶はかなり不味かったと言ったけれど、あれは咲洲が嫌がらせでわざとやったのだと思っていた。


これを聞く限り、わざとではないらしい。なんと気の毒な。


「そうでしたか。それはいけませんね」


その間に全ての材料が揃った。


「帰りますか」


「あぁ」


私の言葉に斎藤さんが頷いた途端、ぽつぽつと雨が降ってきた。


おかしいな。今日は風が湿ったように感じなかったし、風向きも、対して変わってなかったのに。


「雨………」


「そこの茶屋で雨宿りするぞ」


突然降ってきた雨に疑問を抱きつつ、斎藤さんと一緒に近くの茶屋で雨宿りすることになった。


しかし、待てども雨は激しさを増すばかりで止む気配はない。


「止まないな」


「はい」


「主人、団子を二つ」


「へぇ。少々お待ちを」


もうしばらく止むことはないと踏んだ斎藤さんは、茶屋の主人に団子を注文した。


「あんたに、前々から聞きたいと思っていたことがあった」


主人が調理台へ消えていった頃、斎藤さんが言った。


「はい、なんでしょう」


「何故あんたは、そんなにも新選組に忠実なんだ?別に命を救われたのではないだろう?」


斎藤さんが私に質問があると言ったので、どんなことだろう?と思ったけど、なぁんだ、そんなことか。


でも、斎藤さんが疑問に思うのは最もだ。私は、別に新選組に命を救われた訳でもないし、熱烈に希望して入りたいとも言っていない。むしろ、見方によればいやいや入ったとも思われ兼ねない。


「…確かに、そうですね。新選組に恩はありません」


私は一呼吸おいて話始めた。


自分の事を話すのは好きじゃない。だけど、これくらいなら別に良いと思った。


「俺は、新選組にさほど興味はありません。執着もしていません。極論を言うならば、新選組がどうなろうと俺には知ったことじゃない」


「ならば、何故………?」


「土方さん。………土方さんを尊敬しているからです」


「副長を……?」


意図せず、私の口から飛び出してきた言葉。私は言い終わった後、ハッとした。


私は何を言ってるんだろう。本当は、新選組の末路を身近で見たくて入ったくせに。


斎藤さんは私の返答に少し驚いていた。


私も、自分に驚いていた。

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