真っ暗な世界で
自分にそんな感情が芽生えていたなんて知らなかった。そんな感情があることすら知らなかった。


新選組のために自ら嫌われ役の鬼を買って出て、隊士に恐れられて。だけど本当は私が躓いて転んだだけで慌てて、心配してくれる、とても優しい人。


そんな彼を、ずっと傍で見守っていけたら、と思うことがしばしばあった。


そうか。これが『尊敬』なんだ。


「尊敬………してるから、です」


私はその言葉を噛み締めるようにもう一度呟いた。


「へぇ、お待ちどうさん」


コトリと主人が団子を置いていく。


みたらしなのだろうか。甘く、香ばしい香りがする。


「一本、やる」


唐突に斎藤さんが私の前に団子を突き出す。目と鼻の先に香ばしい香りがする。


「え?」


「ほら」


戸惑う私をよそに、斎藤さんは私の手に団子の串を握らせて、その手を離す。


私は落とさないように、慌てて串を握り締めた。


「ありがとうございます」


「ん」


お礼を言って、一口かじれば口いっぱいにあまさが広がる。


「美味しい、ですね」


「そうだな。美味い」


そうして、雨が止むまで二人で過ごした。


その30分後、ざぁざぁ降りの雨が小雨になったので、主人にお代を払い、足早に屯所へと帰った。

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