真っ暗な世界で
あの後すぐにゲス……土方の部屋を出てしまったので、ハル君のことを聞きそびれてしまった。


くそぅ……全部ゲス方のせいだ。ゲス方が余計なこというから忘れたじゃねぇか。


「あーっ!ここにいたのか、玲那!」


大声をだしてこっちに小走りで来たのは藤堂平助。


もともと色素が薄いのか、栗色の髪を高い位置で結っている。髪の長さは結うと肩ぐらいまで。


目は髪と同じ栗色で大きい。小麦色にやけた肌は、そこら辺を駆け回るやんちゃ坊主を彷彿とさせる。ハル君の次に可愛いが似合う男だ。


「平助、どうかした?」


「頼むっ!夕餉、玲那が作ってくれ!」


私が聞くなり必死な形相で私に手を合わせてきた。


「はぁ?何でだよ。朝も昼も出てたじゃん」


「それは俺と一くんが作ってたから!俺たち、これから夜の見廻りとかあるからさ、作れないんだよ」


「他の奴に頼めば?」


「……いいのか?俺ら以外は料理の原型もとどめないぞ?」


その言葉を聞いて、私は即首を縦に振った。


「つ、作る!」


「ありがと!いつもは春が作ってんだけどさ、暫くいないんだよな」


そう言ってニパッと笑って平助は去っていった。


ハル君すごい!料理まで出来るんだ!!


心の中でハル君に感嘆すると、次に襲ってきたのは不安だった。


………でも、大丈夫か?私の料理も結構壊滅的らしいけど。


一度だけ、弁当を作ったことがあった。


それを副総長の鈴篠綾希が食べた。


玉子焼きを口に入れた瞬間、いつも冷静沈着でうすら笑いを浮かべていた彼女の顔がサァァとマンガのように青ざめた。


「………綾希?」


「玲那……………こ、れ………」


青ざめたまま、私を凝視して数秒後、気を失った。


それから約3日、まるまる寝たきりになったのだ。


原因は、言うまでもなく私の玉子焼きだ。


あれから、私の手料理は兵器と見なされるようになった。

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