真っ暗な世界で
震える手で、口を押さえる。


殺して、しまった……。


血の匂いはないから、おそらく、首か頭に刀が入ったんだろう。あれだけの重さのある日本刀だ。鈍器として十分機能するはずだ。


正当防衛はいえ、人を殺すなんてことをする日がくるとは思ってもいなかった。


どうしよう。私は犯してしまった。人として、犯してはならない罪を、自分はやるまいと思っていた罪を。


あいつと……あいつと………同類だっ……!


「………っ」


動揺、罪への恐怖、自分への怒り。いろいろな感情が混ざり合う。


違う、違う。私はあいつと同類なんかじゃない。そんなこと、考えたくもない。


それに、ここは平成じゃない。幕末なんだ。命が簡単に消えていく時代。


殺らなきゃ殺られる。


私は、殺られるのが嫌だから、殺ったんだ。どこが悪いの?


生き残るためには、捕食者にならなきゃならない。


自分の中で、重罪を犯したことへの言い訳……もはや開き直りの言葉がすらすらと出てくる。


言い訳とか、開き直りとかは、嫌いだった。


でも、今は、それをしないと、冷静になれなかった。


首を横に数回振って、思考回路を別に向ける。


今考えるべきは、この状況をどうするべきかだ。







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