身代わり王子にご用心



「藤沢さんも高宮さんも、ありがとうございました」

「……別に」


素っ気なくそれだけ答えた高宮さんに、私は思い切って訊ねてみた。


「あ、あの! すごく助かったので……よかったらお昼をおごらせてください」


普段の私ならお礼を言うのでいっぱいいっぱいだろうに、その時はどうして声を掛けられたんだろう?後でいくら考えても分からなかった。


けど、私が声を掛けたところでマイペースな彼は足を止めることもない。 すぐに我を取り戻した私は顔を隠したくなるほど恥ずかしくなってた。


(どうしてそんなことを言っちゃうの! こんなアラサーのおばさんに声をかけられたって気分が悪くて無視されるに決まってるのに)


「水科さん、気にしないでいいと思います。彼はいつもあんな感じですから」


藤沢さんがフォローをしてくれたけれど、階もフロアも違う彼女がなぜ高宮さんのことをそう知ってるのか、となぜか胸がざわついた。


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