身代わり王子にご用心




夜、8時。閉店後に警備の荷物チェックを受けてから従業員出入口を使って藤沢さんとともに外に出る。


空は澄みきった降るような星空。


シンと冷えた空気の中、鼻腔をくすぐるのは、シトラス系を少しだけ甘めにしたような爽やかな香り。


「藤沢さん、お疲れさま。今帰りかな?」


12月なのに春をおもわせる暖かい声がした途端、藤沢さんが眉を寄せて不愉快さを露わにした。


「桂木(かつらぎ)さん、あなたに関係ないことだと思いますけど?」


桂木、という名前を聞いて思い出した。たしか今年の新入社員で抜群にカッコいいイケメンが入ってきたんだって。春にはその話題で持ちきりだったんだ。

振り向けば、藤沢さんの隣にスーツ姿の長身なイケメンが立ってた。なるほど、俳優並の美形だって噂はだてじゃない。私も思わず見とれるほどの端正な顔立ちだった。


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