身代わり王子にご用心
上映会が始まる少し前に曽我部さんに席を追い立てられ、そのまま映画を観ることになって椅子に座ると。隣に桂木さんが腰を下ろす。
「ごめんね、何だか手伝わせちゃったみたいで」
「いいえ、いろいろとお話が聞けて楽しかったです。お茶やキャンディもいただきました」
曽我部さんがナイショ、と言ってくれた袋に入ったキャンディ。ポケットに入れたそれが気になって、布の上からそっと触れて感触を確かめる。なんとなく気分が浮わついて、落ち着きなく桂木さんに話しかけた。
「桂木さんが映画部にいたって、初めて聞きました」
「高校の時に、だね。大学は東京だったから、もう離れて何年も経つけど」
「そうなんですか?」
なら、なぜ私を今日ここに連れてきたんだろう? どうも腑に落ちないままでいると、彼は膝に載せた拳に目を落とした。
「……現実は、どんなに切実に望んだって叶わないこともあるんだ」
その震える拳が血色を失うほど強く握りしめられていて。私は何も言うことができなかった。