身代わり王子にご用心
やっぱり冷たい彼に、心が折れそうになる。
(で、でも……今日はちゃんと喋ってくれたし。私を見てくれた……それだけでも進歩だよね、うん)
俯きそうだった顔を上げて、彼の背中を見送った。
うつむくな、と富士美さんにアドバイスされて以来。意識して前を向くようにしてる。いつまでもいじいじしてたって、何も生まれない。
(私にできることを精一杯やろうって決めたばかりなんだから……)
まずは、朝ごはんの支度を完全に終わらないと。うん、と一人でうなずいてその場を後にした。
途中で眠そうなパジャマ姿の藤沢さんが部屋から出てくる。
「おはようございます~」
こんなに早いのは珍しい。いつもは早番でも7時にならないと起きないのに。
「おはよう、今日は早いんだね」
「え~何を言ってるんですか? 今日は富士美さんのお店に行かなきゃならないんですよ。早く支度をしないと怒られますって」
藤沢さんが意味不明なことをおっしゃるけど。
「え、そうなんだ。じゃあ朝ごはん早く食べないと駄目だよね。なら、藤沢さんの分だけ先に支度をしておくから」
「え、桃花さんも行くんですよ?」
ますます意味不明で、寝ぼけてるのかと思い私は彼女の背中を軽く叩いた。
「まずは顔を先に洗ってくるといいよ。冷たい水で頭がすっきりするから」