身代わり王子にご用心
会場であるホテルに到着した途端に、ビックリした。
シティホテルとはまったく違うホテルの高級感もだけど、何と言ってもマスコミが取材に来ていたことに。
(き、聞いてないよ~!)
私が外を見た瞬間に気絶したくなったとして、誰が責められるだろう。
パーティーに訪れるであろう顔ぶれに、誰もが知る芸能人や俳優にスポーツ選手に政治家までが訪れているなんて。そりゃあマスコミも注目するはずですよ……。
日本屈指の大企業の創立記念パーティーだから、当然かもしれないけど。普段は底辺で暮らす庶民からすれば、まるっきり別世界ですってば。
「あ、あっちにいるわね」
なぜか車寄せに停まらず、富士美さんの指示でリムジンはホテルのあまり人気のない場所に移動する。もしかするとここで下ろしてもらって……と期待するけれど。
乗り込んできた2人を見て、一瞬目を疑った。
「遅くなってごめん。挨拶が長引いて外で合流できなかった」
ブラックのフォーマルスーツに淡い色のネクタイを合わせた桂木さんは、いつも見慣れているスーツ姿だから違和感はないけど。
一緒にやって来た高宮さんの姿がいつもと違いすぎた。
彼はブラックのジャケットにグレーのジレと同色のズボン、濃いめのグレーのネクタイに白いポケットチーフをしてた。靴は黒いエナメルのオックスフォードスタイル。いつものボサボサの髪は、きちんとスタイリングされていて。
その凛とした雰囲気に、頬が熱くなって胸が息苦しくなる。心臓がわずかに速く鼓動を打ち始めた。