身代わり王子にご用心
彼の近くにいるだけで心臓が騒ぎ出すのに、服越しでも彼に触れてしまうなんて。気分がふわふわして息苦しくなりそうだ。
作業中に彼の視線を感じてドキンドキンと心臓がうるさく鳴る。頬が熱い……どうか顔が赤く見えませんように。蛍光色の照明とメイクで誤魔化せれていればいい。
ほんの僅かな身動ぎだけでも、その都度緊張が高まって手を止めそうになる。わずかだけど彼のぬくもりとたくましさ……仄かに香るムスク系のフレグランスを感じて、クラクラしそうになりながらなんとかコサージュを留め終えた。
「はい、終わりましたよ」
「ああ……」
彼の顔が見られなくてコサージュに目を向けたまま、手持ちぶさたになった。
すると、彼がポツリと何事かを呟く。
「……なんでこういうのは針のピンで留める必要があるんだ」
「え?」
珍しく感情が滲み出た声に顔を上げれば。何だか拗ねたような、決まり悪そうな表情の高宮さんの顔があって。
……まさか、彼は針とかの先の尖ったものが苦手なの?
彼の嫌いなものが発覚して、私は思わず吹き出してしまいましたよ。
「……笑うな。針なんかこの世から消えればいいだけだろ」
「で、でも……ぷっ……ふふふ」
ますます拗ねた彼が可愛くて、私は口元を押さえて笑いを堪えるのが大変だった。