身代わり王子にご用心



会場は一番大きなアクアクリスタルの間が使用されてた。
天井からは滝をイメージしたシャンデリアがキラキラ輝き、床はシックなデザインの模様の絨毯が敷かれ、白がベースの壁はベージュの調度品で豪奢ながら落ち着いた雰囲気を醸し出してた。


「雅幸、よく来てくれた」

「はい、伯父様。ご無沙汰しております」


入場してすぐ高宮さんが向かったのは、主催者側に当たる葛城グループの関係者席。グループ総帥を務める剛(たける)氏の長男である昭治(しょうじ)さんを直に見るのは初めてだった。


たしかお年は48かそこらで、自動車メーカーの社長をされてたはず。ダークネイビーのスーツに包んだ身体は体格がよくて、威風堂々と言った様子。それでも通った鼻筋や眉が弟に似ていて、やはり兄弟なんだと分かった。


「やっと決意をしたから、今日の招待を受けてくれたのだろう?」

「どうでしょうか? 私をあなたの娘の婿養子に迎えたとして、それが本当に葛城の為になるとは思えませんが?」


昭治さんに答えた高宮さんの発言に、周りがざわめき立った。


そりゃあそうだ。


もうお年である会長は近々引退し、この昭治さんが葛城グループの総帥の地位を継ぐと言われてる。それくらい私も知っている話なのに、更にその後を継ぐ婿養子の話を今ここであからさまにするなんて。


あまりにも軽率と言えば軽率だけど……。


それに、今日は名前や顔を明かしていいの? とハラハラしたけど。決してそれを表に出さず、背筋を伸ばし胸を張って彼の隣に立っていた。




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