身代わり王子にご用心




「まあ、そう堅いことを言うな。今日はおまえの顔見せの意味もあるが、あまりこういった機会もないだろう。楽しんでいけばいい」


昭治さんは甥の無礼さを咎めることもなく、サラリと流して優しい言葉さえ掛けてくれる。

普通の人なら怒りそうなものだけど、さすがに国際的な会社の社長さんは器が違う。


「ありがとうございます。お言葉に甘えて楽しませてもらいますよ」


高宮さんも伯父に向かって口元だけに笑みを形作っていたけど――瞳は全く笑っていない。


そのブルーグレイの瞳には、どこか挑発的な光が浮かんでいたような気がした。


私は挨拶しなくて良いのかなと成り行きを見守っていると、一歩控えめに立っていた女性が昭治さんの隣に進み出た。


「雅幸さん、お久しぶりですわ。今日はお会いできることをとても楽しみにしてましたの」


アッシュブラウンの髪をシフォンパーマにし、淡いピンク色のワンピースを着た高宮さんと同年代であろう女性が彼に話しかけてきた。たぶん、昭治さんの娘さんだろう。


「最近は私もドイツ語を習い始めましたの。あちらの風習も勉強をして……雅幸さんにも教えていただけたら嬉しいですわ」

はにかんだ笑顔はとても清楚で可愛らしい。箱入りのお嬢様という言葉がぴったりだった。

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