身代わり王子にご用心







「おお、そうだった。奈々子(ななこ)は最近、ヴァルヌスについても学んでいるようだよ。雅幸、よかったら娘に少し話してやってくれないかね?」


昭治さんは娘の肩を軽く押すと、高宮さんにそう勧める。奈々子さんは微かに頬を染めて彼を見つめているけれど……その瞳はどう見ても、恋をしている女性のものだった。


(……見ないで)


彼を、そんな目で見ないで……!


そんな身勝手な想いが胸に生まれた瞬間、ハッと我に返って自分を諌めた。


(な……何を考えているの、私ったら。高宮さんは恋人でも何でもないのに……)


必死になって平静を装おうとしている中で、高宮さんの朗々と話す声が気分を落ち着かせてくれた。


「祖母の母国であるヴァルヌスについて興味を抱いて頂くのは大変ありがたい。日本でもあまり知られてない国ですからね。今度葛城とヴァルヌスの国営企業が業務提携をする以上、相手のことを学ぶことは必要ですし。
ですが、今日私にはパートナーがいますし。主催者をこれ以上独り占めしては他の来賓の挨拶の邪魔となりますので、これで失礼いたします」


そう話した彼は失礼にならない程度の会釈をして、そのまま場を離れる。私と言えば笑顔を崩さないようにするのが精一杯で、とても発言したりする余裕はなかった。
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