身代わり王子にご用心



離れてしばらく歩いた時に、高宮さんはボソッと呟いた。


「よくやった、それでいい」

「え……」


どういう意味かと彼を見ようとすると、「前を向いていろ」と言われましたけど。


……もしかして……褒めてくれたの?


今まで一度も私を認める言葉をくれなかったぶん、胸がじんわりと熱くなって涙がこぼれそう。誤魔化すために急いで違う話を出した。


「挨拶……しなくてよかったんですか?」

「伯父に紹介して欲しかったのか?」


すぐさま切り返され、私は慌てて首を振る。


「いいえ! ただ、失礼じゃなかったかなと」

「そんなもの、不要だ」


私の気遣いを、高宮さんはすっぱり否定した。


「見ただろう。親子してオレを狙ってるあの目を。あいにくオレは、舌なめずりして待ち受ける肉食獣の群れに飛び込む趣味はないんでね」


肉食獣……ですか。


笑っていいのか呆れるべきかわからない微妙な表情になったであろう私に、高宮さんはこう告げる。


「アンタの素性を知ったら、あいつらは確実にアンタや周りを潰しに掛かる。そうされたいのか?」


私は勢いよく首を横に振った。

葛城グループの次期総帥なんかに睨まれたら、妹のせっかくの結婚話が壊れてしまうかもしれない。


私はどうなってもいいけど、妹だけは。両親の代わりに守って幸せになって欲しいと決めたんだ。彼女が不幸にならないために、余計なリスクを負わなくてよかったと今更ながら思う。

高宮さんは私を庇う為に敢えて存在をスルーしてくれていたんだな……。


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