身代わり王子にご用心
そのうち開始時刻になったらしく、司会者による開会の辞や社長等の挨拶が始まった。
こういうのは学生時代から苦手だったけど、朝礼の校長先生の話と比べればずいぶん短時間で終わってホッとした。
時計を見ると午後6時。夕食に合わせたのか、中央と奥にはいろんなお料理が揃った卓が用意され、飲み物専用のバーコーナーもある。立食形式ならマナーに関して気が楽だ。
100周年の社歴を紹介したり、いろんなプロジェクトや画期的な技術の紹介等のビジネス関連のアピールが続く。
来賓の祝辞や祝電披露や著名人のメッセージを流したりと様々なプログラムが終わった後、ようやく乾杯の音頭が取られた。
「ほら、アンタも」
「あ、はい」
高宮さんに渡されたカクテルを慌てて持ち、不自然にならないように務める。
ようやく歓談の自由時間が訪れて、緊張が少し解れた。後は適当に帰ればいいって桂木さんに聞いてたから、もう少しで役割は終わり。
やっぱりこんな場所は慣れない。庶民には場違いもいいところだもの。
(高宮さんがちょっとだけ優しくしてくれたから……これだけでも来てよかったかな)
「好きなものを取って食べろ。ただ、取りすぎに注意して皿からはみ出すように欲張るな。皿は一度ごとに新しいものに取り替えろ」
「あ、うん……分かった」
思わずタメ口で答えてしまい、しまったと口をつぐんだけど。高宮さんは全く気にしてない風だった。
「あんまり他人行儀な態度を取るな。不自然に思われる」
小さくそう言った彼は、私の身体に密着しそうなほど近づいてきた。