身代わり王子にご用心
「もう、愛想笑いはいい。後は自由に楽しんでいけ」
「……わ、わかった」
それだけは何とか答えたけど、なぜ後ろから身体を近づけるの?剥き出しになったうなじに吐息がかかって……顔の熱さが身体に広がりそう。
心臓も頭も熱で狂いそうな私は、耐えきれなくて彼から離れた。
「お、お料理を頂いて来るから……ちょっと待ってて」
グラスを近くのテーブルに置いてササッと料理の卓に近づいた。
(高宮さんのバカ……心臓に悪いよ!)
ドキドキと鳴る胸を押さえながら、気を取り直して目の前にあるお料理に意識を向ける。
(えっと……お料理を頂く順番は、まずオードブルからだったよね)
移動する車中で富士美さんに教わったマナーを思い出し、まずはオードブルをお皿に載せる。あまり種類を欲張らず、お皿の半分より少し多めを目安に。
見たことがない珍しい食材や盛り付けもあって、興味深くお料理を眺めていると。向こうの卓では桂木さんと藤沢さんの2人が並んでお料理を選んでる姿が見えた。
時折桂木さんが女性に話しかけられるけど、彼は全て笑顔でいなして相手にしてない。葛城の関係者っぽい人も同様で。
藤沢さんが人とぶつかりそうになった時、彼女の腰を抱いて実にさりげなく避けさせた。
それだけじゃない。何を話してるのか2人は終始笑顔で、特に藤沢さんは本気で笑ってる。
そして――桂木さんはひどく悩ましげな瞳で彼女を見つめていた。