身代わり王子にご用心
あれは……あの目は。車の中で見た時と同じ。
とても愛しそうでいながら、切なげで。
――もしかしなくても、桂木さんは藤沢さんが本当に好きなんでは? そう考えてもおかしくないほど、熱を孕んだ瞳だった。
藤沢さんは気づいてないのかな? だとしたら桂木さんが不憫かもしれない。
桂木さんが彼女に偽の恋人を提案したのは、本当なら本物の恋人になりたいからだって。
(……いつからだろう? なんて考えるのも野暮か)
今まで桂木さんがどれだけ藤沢さんを大切にしてきたか、を考えるだけでも判る。きっとずっと想ってきたんだろう。だから、苦し紛れにあんなことを提案したんだ。
(藤沢さんは全くその気になってないみたいだけど……)
でも、車の中で桂木さんの事情を聞いた時の怒りっぷりは。元々正義感が強い子だけど、あんなに怒るのは知り合いだからか……それとも?
(たぶん、藤沢さんも桂木さんに好感はあるはず)
時間を掛ければ、進展の可能性はない訳じゃない。きっと桂木さんも承知してるはず。
……高宮さんだって。
彼は葛城グループを継ぐんだろうか? もと貴族の家系の令嬢であるマリアさんと結ばれるためには、おそらくそれなりの身分や地位が必要だ。
本気でマリアさんを欲するなら、縁談抜きで葛城グループの後継者の地位をみすみす見逃す訳がない。
(やっぱり……私には手の届かない人になるのかな)
妹も、恋人と仲良く暮らして。間近には新しい恋人が誕生しそうで。
自分は独りなんだ……と、痛いほどに理解した。