身代わり王子にご用心



ぼうっとする藤沢さんを抱き寄せた桂木さんが決定的なひと言を放ったらしく、お嬢様は耐えきれなくなったのか、何かを言い残して去っていった。


耳まで赤くなって固まったままの藤沢さんを気遣った桂木さんは、彼女を抱き寄せたまま甲斐甲斐しく世話を焼く。


それは、どう見ても相思相愛の恋人同士の仲の良さげなやり取りに見えた。


遠いしざわめきもあって何を言っているかは聞き取れないけど、どうやら2人は心配ないみたいだ。寂しさを押し込めた私は、最後のオードブルを選んで適当なテーブルに運ぶ。 途中までは高宮さんも歩いていたのだけど。


彼がピタリ、と足を止めたから。何かと不思議に思いそちらを見た瞬間に後悔した。




――あのひとだ。




私の目が吸い寄せられるようにそちらを向いた瞬間に気づいた。


まるでスポットライトが当たっているように、そこだけがキラキラと輝いて見える。


その中でもひときわ眩く輝くブロンド美人。澄んだブルーの瞳と絹のようなさらさらの金髪。瞳に似たロイヤルブルーのカクテルドレスを身に纏った、美の女神。彼女が、そこにいた――。


「……マリア」


すぐそばにいたからこそ拾えた高宮さんの呟きは、私の胸をギュッと締め付け苦しくさせた。


……とても懐かしく慕わしい、柔らかく優しく温かい。私に向けられることがない、愛しさに溢れた声が。


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