身代わり王子にご用心
見たくない……
まだ好きな人を見つめる、高宮さんの愛しげな目は。
あの綺麗なブルーグレイの瞳に、私以外の人を映す姿なんて。
キリキリとお腹が痛む。鉛を飲んだようにどんどんと気分が沈むけど、私は小さく拳を握りしめて耐えた。
震えないで……ちゃんと前を見て。何でもないふうに振る舞わなきゃ。
カトラリーを手にした私は、オードブルを盛ったお皿を持ち高宮さんに何とか笑って見せた。
「私はここでいただいてますね。いろんなお料理があって楽しめそうですし……それに、ドイツ語はさっぱりわかりませんから。高宮さんもどうぞお好きに過ごしてください」
「……」
どうしてか高宮さんはジッと見下ろしていたけど、私は急いでオードブルを口に運ぶ。
「わ、これ美味しい。こちらはどんな味かな……」
こうやって、もう高宮さんには用がない、というポーズを取るのがいっぱいいっぱいだ。このままだとみっともなく涙が出てしまいそうで。早く行って……と思うけど。行って欲しくもない。
(行かないで……あの人のところへなんて)
本当は、そう叫びたい。
けれど、私にはそう言える権利なんて一ミリもないんだ。
単なる同僚で一時的な同居人に過ぎない私には。