身代わり王子にご用心
「……後で桂木達と合流しておけ」
「わ、わかった……。何にも心配しないで。私は大丈夫だから」
高宮さんたち以外知り合いもいないし、取り立てて美人でもないから声を掛けてくる物好きもいないだろう。そんな自虐的な気持ちを胸奥に沈め、私はひとまずお料理に注意を向けようと努めた。
遠ざかる足音を聞こえないふりをして、せっせとお料理を口に運ぶ。
たとえそれが砂を噛むような味気なさでも。涙を堪えながら懸命に飲み込んだ。
高宮さんの気配を感じなくなってから、急に食欲が消えてフォークで生ハムをつつく。
残すともったいない、と無理にお腹に収めて。チラッと気になった方へ目をやりすぐに後悔する。
――マリアさんと会話をする高宮さんの、幸せそうな微笑みと甘い視線を見てしまったから。
私がどんなに頑張っても、決してもらえないであろう。恋しい人へのそれ。
マリアさんのまばゆい美しさと地位と――高宮さんの愛情。どれだけ望んだところで、私には欠片も手に入らない。
こんな、にわか仕立てで装ったところで。底の浅い……メッキに過ぎない私は。あんなに輝けることはない。
ましてや、高宮さんの目を向けることさえ……。
目と目を交わしあう2人は、それだけで通じあったのか微笑みあう。誰にも入れない2人だけの世界が確かにあって。
居たたまれなかった私は、飲み物をもらうふりをしてバーコーナーに逃げ込んだ。