身代わり王子にご用心
バーコーナーは飲み物をいただく場所。ワインや軽いカクテルにジュースなんかが用意されている。
本来ならジュースを選ぶべきと解っているけれど、なんとなくアルコールが欲しくてワインを選んだ。
白とか赤とかよくわからないから、綺麗な色のものをいただいた。
(飲んで忘れられたらいいのに……)
バーコーナーの壁際でほんの一口ワインを飲んでみる。
ぽとり、と一粒だけ、涙が床に落ちた。
「次はこのワインなんてどうかな?」
最初のワインを飲み終えたころ、違うワイングラスがスッと差し出された。
「アスマンスホイザー·ヘレンベルク。ドイツの赤ワインでも優秀なヘレンベルク畑産だよ」
「は……あ」
まさか誰かに話しかけられるとは思わずに、間が抜けた返事をして思わずグラスを受け取ってしまった。
私に新しいワインをくれたのは、たぶん同年代の男性。渋めな紫色のスーツを着て、ピンク色のシャツに赤い水玉模様のネクタイをしてる。髪も明るい薄茶色で。たれ目で何だかお化粧をしたみたいに肌がつるつるスベスベに見えた。
「キミ、雅幸と一緒にいただろう? どんなひとが興味があったけど、雅幸に威嚇されて近寄れなかったからね。このチャンスを逃すわけないってお近づき願ったわけさ」