身代わり王子にご用心
「桃花さん」
「……はい」
「今度、美味しいワインでも飲みにいきませんか? 長野県にワイナリーがある酒造メーカーがあるんです」
「はい……!?」
勝さんは顔が平均より整っているだけで、後は一般的なサラリーマンと変わらない平凡な姿をしてる。けど、葛城の一員なら将来性は保証されるだろう。その彼がなぜ私を誘うのか。意味がわからない。
「あ、あの。ありがとうございます。ですが私を誘ってもつまらないですよ」
「でも、一度だけ試しても……きっとがっかりはさせませんよ」
勝さんがなかなか引き下がってくれなくて困っていると、いきなり後ろからグイッと腰を抱き寄せられた。
「勝、ひとのモノにチョッカイを掛けるな」
――え?
まさかこの場に現れると思ってなかった人の出現に、身心ともに固まった。
(なぜ……来たの? 大好きなひとのところにいればよかったのに!!)
「は……離してください。こ、恋人でもないのに!」
こんな時まで偽りの恋人を演じる必要なんてないのに! と私は彼から離れようともがいた。
「おい、桃花さんを放してやれよ」
勝さんが援護をしてくれるのを聞いた彼は――なぜかピクッと目元を動かす。
「……なるほど、ね」
ひとりで勝手に納得したらしい彼は、ますます私の腰に回す腕に力を込めた。
「コイツはアルコールに弱い。だから、酔いざましに風に当たらせてくる」
彼はどこからかペットボトルの水を受けとると、そのまま私の手首を掴み大股で歩き始める。
どうしてかその歩みは乱暴で、ちっともこちらを思いやってはくれてない。
やがて着いた場所は、イルミネーションの見えるガーデンだった。