身代わり王子にご用心
第三章 甘いバレンタイン
ロッカー事件
「えっと……賽の目切りってこうですか?」
「うん、そうそう。そうやってもう一度端から切ればOKだから」
朝、6時前。桂木さんのマンションのキッチンでは、即興のお料理教室が開かれてた。
パーティーから帰った翌朝、藤沢さんに「もっとお料理の腕を上げたいので、お願いします」と懇願されたから。早速次の朝から一緒に作ることにしたんだ。
もともと私が病気をした事をきっかけに、度々教えてはいた。それは週に一度くらいの頻度ではあったけど。どうやら彼女は本気でお料理を覚えたいらしい。真剣にメモを取りながらあれこれ勉強してた。
……これは食べさせたい人が出来たな、と直感した。中学生の時の妹と同じだったから。
目標があれば人は努力するし、真剣に学ぼうとする。中途半端に遊んでるようなら、それは本気ではないということ。
パーティーで一連の光景を見た私は、藤沢さんが誰に食べさせたいのかを容易に予想出来た。
「え~っと……カッツーって確か半熟じゃなくて固めが好みでしたよね」
ポロリと何気なく出た名前に、やっぱりと確信をする。それでもまだ今は見守るだけにしよう、と私は頷いた。
「そうね。あと、ザワークラウトが好きだから、添えてあげると喜ぶと思うよ」
「へえ……そうなんだ」
ザワークラウトは漬物に近いから、酸っぱいものが嫌いな彼は絶対に食べないけど。と内心で呟いた。
「えっと……後はバジル系が好きっぽかったですよね。今度パスタ作ってみます」
ムン、と片腕を上げる藤沢さんは何だか頼もしくて。もう一人の妹が離れていくような寂しさもちょっぴり味わった。