身代わり王子にご用心
やって来た嵐?
「桃花さん、大丈夫ですか?」
「……うん、何とか」
夜、もう誰もいないロッカー前で。私と藤沢さんの他に桂木さんもいた。
(さすがに現場である女子ロッカーを見るのは、他の女性従業員がいなくなってからだった)
「これは……器物破損にもなりうる事件ですね」
スーツ姿の桂木さんが顎に手を当てて難しい顔をしている。さすがにここまで来ると、私も警察の介入を拒めなかった。
「警察には通報しましたが、たぶん近所の交番から1人か2人の警察官が来て終わりでしょう。けど、水科さん。さすがにもう今までのことを話した方がいいと思いますよ」
「そうですよ! 盗難疑惑とか閉じ込められとか……完全に犯罪じゃないですか!」
桂木さんの言葉に藤沢さんが勢いよく賛同する。
「ここまで好き勝手にされて黙ったままなんて、わたしが許しません! 桃花さんが表に出たくないなら、わたしが代わりにやりますよ」
相当頭に来ていたのか、藤沢さんが息巻いてる。
普段から私への社内いじめに憤っていたから、遂に我慢の限界を越えちゃったか。
「い、いいよ。藤沢さんがやらなくても。これは……」
知らず知らず震えていた手のひらをギュッと握りしめ、顔を上げてハッキリと告げた。