身代わり王子にご用心








まさかあんなことになるなんて、数ヶ月前の私は予想もつかなかった。








「おはようございます、水科(みずしな)さん」


朝から明るい笑顔で元気よく挨拶してくれるのは、アイドル並みに可愛らしい容姿をした藤沢(ふじさわ)さん。


ここは勤務先である地元スーパーの、女性用ロッカールーム。一階に設けられたそこは、主にスーパーの女性従業員とテナントの女子社員が使う。


このスーパーで働き始めて10年近くになるけど、お喋りするような親しい人がいない中で。5つ年下の藤沢さんだけは変わらずに接してくれる。


「お、おはよう……」

「今日はクリスマスイブですから、プレゼント用ラッピングで忙しいでしょうけど。頑張って乗りきりましょうね!」

「そ、そうだね」


藤沢さんは主に仕事のことを話に振ってきて、無理にプライベートな話をしない。たぶん、話をしたがらない私に気遣ってくれてるんだと思う。

今日だって若い人ならクリスマスの過ごし方を訊いてくるだろうに。本当によく出来た子だなあ……といつもながら感心するな。

ふわふわの栗毛が似合う小柄な藤沢さんと違って、私は黒髪のひっつめ髪に中肉中背。顔は地味で、最低限の化粧しかしてない。


制服である白いブラウスと青いベストにスカートを着ていても、彼女はモデル並みに可愛らしく見えるのに、私だとただの疲れたおばちゃんに見えてしまうのは仕方ない。
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