身代わり王子にご用心
――翌朝になって、驚くべき出来事が起きました。
精神的な疲労困憊状態で、起きたのがギリギリの時間。店長の言ってた全体朝礼に間に合わすために、急がなきゃ!と慌ててマンションを出たところ。
「……あの?」
それを目の前にした私は、一体どんな顔をすれば良いのかわかりませんでした。
「つべこべ言わず、被れ」
無言で差し出されてた大きなヘルメットは、彼の手によってパフンと被らされて。一瞬視界が真っ暗になって慌てて被り直した。
それから、手袋とジャケットみたいなものも渡されて身につけたあと、跨がれと顎で示されたのは――とても大きなバイク。自動車より更に馴染みがない乗り物だけど、既に完全装備な高宮さんは先にバイクに跨がってた。
「被害届を出すのに警察署に寄るんだろ? 歩いてたら間に合わなくなるぞ」
「は……はい」
バイクなんて原付も乗った経験がないのに、馬みたいな大型のバイクなんて正直恐かったけど。高宮さんの言う通り、かなり時間的にまずいのは確か。
少し迷った末に、思い切って彼に体を預けることにした。
「お、お邪魔します」
タンデムとかは初めてだから、2人乗りの際の姿勢や注意を素早く聞き。一生懸命にそれを守る。
「行くぞ」
すごいエンジンの音と排気音にびっくりしたけど。必死に彼の身体にしがみつく。
すごいスピードに落ちないように頑張ったけど、そんな中でもライダーススーツ越しに彼の逞しさを感じて。少しだけ胸がドキドキした。