身代わり王子にご用心
大隅刑事に渡せた被害届は、彼女が優先的に受理してくれた。不受理されるケースもあるというから、いい刑事さんに当たったなと思う。
大事件ではないからそう人員は割けないけど、命に関わる可能性はあるし。実際に高宮さんがケガをして私も病気にかかったという被害があったから、疎かにはしないと約束してくれた。
というか。いつの間にか高宮さんは彼自身のケガだけでなく、私の病気の診断書まで用意したんだろう。私は治すのに必死でそこまで気が回らなかった。
用が済んだら済んだで高宮さんはさっさと出発しようとするし。素っ気ないのか優しいのかよくわからない。
自分たちが働くUスーパーのK支店に到着したのは、午前8時42分。9時からの出勤には何とか間に合った。
「あ……あの……ありがとう。すごく助かった」
正直、警察署まではバスを使う予定だったけど。それだと確実に遅刻してた。高宮さんのお陰だとお礼を言うと、彼は「別に」とぶっきらぼうに言う。
「自分の出勤ついでだから、礼を言われる筋合いはない」
彼はそう言うと駐輪場に停めたバイクのそばでライダーススーツを脱ぎ、また分厚いだて眼鏡を掛けて髪をぐしゃぐしゃに乱す。
「あ、待って……」
私はバッグからコームを取り出すと、彼に貸すために差し出す。
「髪……ちゃんとセットした方が……その……だいぶ見た目がよくなると思う。きっとお客さん受けも変わるよ」
「……」
彼はしばらくコームを見つめていたけど、スッと視線を逸らした。
「いい。これはちゃんと理由があるから、アンタが気にする必要ない」