身代わり王子にご用心



「さて、本日は朝礼を始める前に報告することがある」


一通り騒ぎが静まった頃合いを見計らって、熊田店長が再び話し始めた。


いよいよだ……と私は震えそうな腕をギュッと握りしめる。店長の配慮で名前は出さなかったけど、昨日あった出来事を話すと何人かは私に目を向けた。たぶん、あの時現場にいた人だろうけど。これくらいは予想内だから平気だ。


そして、これからが本番だった。


「実は、半月ほど前に貴重品管理倉庫に閉じ込められたという事件が発生した。既に社報で知らされていたが、それはこの店で起きた」


店長が事実を公表すると、周りから戸惑いと驚きの声が上がる。


「え~! マジですか? 間違って誰かが一時的に鍵を掛けたとかじゃなくって?」

「いや、在庫チェック中に鍵をかけられた……つまり閉じ込められたそうだ。それが原因で怪我や病気も発生している。命に関わる事件と判断した本社もこれは傷害事件と認定し、既に警察署に被害届を提出してある。ロッカーの件も含めて、捜査が行われるだろう。それでも落ち着いて仕事を疎かにしないように。それから、警察には極力協力して欲しい」


若い社員からの疑問を一蹴した店長は、くれぐれもとみんなに言い含めてきた。


すると……


「被害妄想じゃないですか?」

と、大谷さんがバカにしたような顔で言い放った。


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