身代わり王子にご用心
「ほう、大谷さんはどうしてそう思うのかね?」
熊田店長が冷静に訊ねると、待ってました! と言わんばかりに大谷さんは話し始める。
「貴重品管理倉庫に鍵をかけられたのは、単なる施錠ですよ。事務所の人間が帰る時に施錠の確認をして、鍵が掛かってないからきちんと施錠をした――ただ普通に仕事を果たしただけ。
きちんと勤務時間内に仕事をしていれば、既に倉庫から出て閉じ込められることなんてないはずですよ?
誰かさんがトロトロと在庫チェックをしていたから、そんな事が起きただけ。なら、単なる自己責任じゃないですか」
得意満面な顔で大谷さんがそう話すと、周りからそうだ! という声が上がる。大谷さんシンパの面々だ。
「きちっと仕事を済ませなかった人が悪いんじゃないですか。それなのに、さも大げさに。しかも警察沙汰ですか?」
「どんだけ被害妄想が激しいんでしょう。店長、警察の捜査で仕事を妨げられるんですから、むしろこっちが被害者じゃないですか」
「そ……そうだな。勤務時間を守らず勝手に残業をして閉じ込められたなら、本人が悪いんでは? 店長、そんな狂言に本気で付き合う義務はありませんよ」
大谷フロア長が妻に押されたように、店長に進言する。他の従業員にも自己責任という空気が流れ始めた時。
「……へえ、オカシイね。なんで残業してる最中に閉じ込められたって、アンタが知ってるの?」
その空気を変えたのは、高宮さんのひと言だった。