身代わり王子にご用心
「わ、私は……水科さんに頼んでなんていません」
弱々しくもはっきりと、浅井さんが証言をする。
「か、鍵だって……昨夜無くしたのを気づいて。開きっぱなしでしたから、盗難に遭わないか心配していたら……水科さんが。信じられません!」
「そうですよ。きっと彼女は半年前の盗難事件のようにうまくやりおおせるつもりだったんでしょうけど。あいにく私が警戒して見つけてしまったものですから」
「半年前の盗難事件とは? その時にも何があったかお聞かせ願えますでしょうか」
大隅刑事が大谷さんの話しに興味を引かれたようで、手帳を開いて完全に聞きに入る体勢に。大谷さんは得意満面といった様子で、あることないことを針小棒大に話し出した。
「……という訳で、わたしは最初から怪しいと彼女を疑っていたんです。高卒での手取りなんてたかが知れてるじゃないですか。妹を養うために数年前から繰り返してる常習犯じゃないかって」
「盗難が他にもあったんですか?」
「ええ、ええ! 今はもうありませんが、数年前はCDやDVDの売り場もありましたからね。そこの売り場からちょくちょく商品が無くなりましたの。それも、彼女が早番の開店前に限って。一度はゲーム機やゲームソフトがごっそり無くなった時もあったんですわ」
「それほどの被害を、なぜ警察には届けなかったんですか?」
「夫が穏便に……と。水科さんも事情があるのだから、そのうち自分から話してくれるのを待っていたんです。でも……こんな形で裏切られて……夫が気の毒でなりませんわ!」
よよよ……と大谷さんは泣き崩れるふりをしてた。