身代わり王子にご用心
そのまま会議室に移動すると、先に待ってる人がいたけど。そこにいたのは、ロッカールームに行く前にぶつかったヒゲのお客さん。
「やぁ、やあ。やっぱり揉めちゃってるみたいだね」
帽子を被ったおじさんを、大谷さんが怒鳴り付けた。
「な、何ですかあなたは! 関係者でないなら出ていってちょうだい」
「まあまあ、そう言いなさんな。ところで……この会話に聞き覚えはないかな?」
ヒゲのおじさんは懐からICレコーダーを取り出すと、カチッと再生ボタンを押す。すると、そこから聞き覚えのある声が出た。
『ゴホッ、あのう……水科さん』
『はい? 浅井さん、どうかしました』
『ゴホッ……あの……すいません。コホッ……ちょっとお願いごとをしてもよろしいでしょうか?』
『はい。別に構いませんけど』
『ロッカーから飲み物を取ってきて欲しいんです。独自の配合をしたハーブティーで、それを飲まないと、持病の咳が酷く出てしまうんです……今は呼吸が辛くて動くのも大変なので、すみませんがお願いできますか?』
『ええ、構いませんよ』
『コホッ……すみません……Aの202が私のロッカーです。これが鍵です』
『わかりました。少しだけ待っててくださいね』
そこまで再生したヒゲのおじさんは、カチッとレコーダーを止めて浅井さんをにこやかに見遣る。
「さて、浅井さんだったかな? 君は水科さんに何も頼んでないどころか、話をしてないと言ったそうだね。なのになぜ、現実にはこんな会話を交わしてるのかな? 理由をはっきりと説明してもらえるかな」