身代わり王子にご用心
ヒゲのおじさんは柔和な笑みでいながら、ものすごい圧力感を感じさせる空気を発してた。ピリピリと肌に突き刺さるような緊張感に、ぶるぶると震えていた浅井さんがガクッとその場に膝をつく。
「カギを無くしたはずなのに、なぜ水科さんに無いはずのカギを渡せたんだろうね? それについても話せるよね?」
ヒゲのおじさんに追加で訊ねられた時、ビクンと浅井さんの肩が跳ねる。真っ青になった彼女は、そのまま叫ぶように言いはなつ。
「ご……ごめんなさい! 嘘をついてました!! 言うことを聞かないと……犯人に仕立てあげた上に仕事をクビにすると脅されて……ごめんなさい! ごめんなさい!!」
浅井さんは何度も何度も頭を下げた。本当に発作を起こすのではないか、というほど呼吸も乱れ。心配になった私は彼女の傍らに膝を着いて背中を擦った。
「いいの……やっぱりあなたの意思ではなかったんだよね。あんまり自分を追い詰めないで」
「う……うう~~っ……」
浅井さんは踞ったまま咽び泣く。きっと、ずっと脅されてきたんだろう。ここまで彼女を追い詰めた人が……目の前にいる人が、心底許せなかった。
「あと、もう一踏ん張りして……そうしたら私は何も言わずあなたを許します。教えて。あなたを脅した人が誰なのか」
戦って、と私は願う。浅井さん自身が解放されるためにはちょっとでも勇気を振り絞ることも必要だと。これからの自分を守るためにも。
私がそう話すと、躊躇った様子の浅井さんは睨まれてビクッと肩を揺らしたけど。私が寄り添っていたからか、勇気を持って告白してくれた。
「……大谷さんです。私を脅したのは……フロア長も含めて、何度か彼らに使われました」