身代わり王子にご用心
……そう、それが良いかもしれない。
今でさえ、マリアさんと一緒にいる姿を見るだけで苦しいのに。更に仲が深まったり……復縁して……結婚なんてことになったら。
(きっと耐えられない……)
想像するだけでこれだけ辛いのに、現実に目の当たりにしたらどれほど苦しくなるか。
情けないけど、私には逃げるという選択しかない。幸せそうに他の女性を見つめる彼をずっと見なきゃいけないくらいなら、自分から姿を消した方がマシだ。
「………」
きっと、今年中には婚約とかになるんだろう。相思相愛でお似合いの2人は、誰からも祝福されるんだ。
私と違って、光に満ちた表の世界を歩いていく。
私はひとりで……地味に生きていく。
震える手に力を込めた私は、熱くなった瞼を閉じて目尻を強く擦る。
(泣かない! 前を向かなきゃ。自分の人生だから、自分で決めて歩いてく。誰のせいでもなく、自分で決めたならやれる)
ひとまずホテルで読もう、と資格の本を手にレジに向かう。その最中に旅行用のガイドブックが目について、ヨーロッパに関してのそれに目をやった。
ドイツ……オーストリア……ヴァルヌス。
その国名を見ただけでそっと手に取ってページを捲る。カイ王子が言ってた通り、ヴァルヌスはドイツとオーストリアに挟まれた山岳が多い国みたいだ。
人口は120万人……医薬品とバイオマス産業が主産業で、乳業とハムやチーズ作りも盛ん。公用語はドイツ語。
かつて、ハプスブルグ家に支配された帝国の一部。
少しのページしか割かれてないけど、アルプスの美しい山並みが綺麗。山岳地帯ならではの独自の文化もいろいろあるみたいだった。