身代わり王子にご用心
ふわふわ、ふわふわ。
私は白い雲の上を歩いてた。
その中で見えてきたのは……あのちっちゃな王子様。
彼が、笑ってた。
よかった、笑ってくれた! と私は手元にあった雪うさぎを手にする。
すると、雪うさぎから聞きなれた音楽が響いた。
え、なんで? と焦る私が雪うさぎを見ると、それはピンク色に変わっていて。どうしようとあたふたしているうちに、王子様が遠のいていく。
待って! と追いかけていっても、王子様はやがて霞のように見えなくなってしまった。
「待って!!」
自分の発した声に驚いて、パッと目を覚ました。
「……ここは?」
見慣れない空間だった。
濃いめのベージュの壁紙に、チョコレートブラウンの棚やテーブル。窓際には皮張りのソファ。そして、二つ並ぶシングルベッド。
どう見ても個人が住んでる部屋ではなくて、宿泊に使われる部屋そのもの。
グレーのカーテンは閉めきられていて、外の様子が窺えない。
(私……ひとりでホテルに泊まれたの?)
ぼうっとした頭を振ると、水の音が向かい側から聞こえてると気づく。シャワールームのドアは閉まってて、隙間から湯気が漏れてる。
(えっ……誰がいるの!?)
半ばパニックに陥りながらも、いつの間にか手に自分の携帯電話を握りしめていたことに気づく。
メールの受信を知らせるランプが点滅していたから、何気なく開いてみれば。
【名前:藤沢さん
件名:ニュースです!
本文:カイ王子がうちのマンションに泊まるなんてびっくりです。
けど、マリアさんって美人と恋人っぽいですね。なんと! キスをしてるところを見ちゃいました!……】
とんでもない事実を告げるものだった。