身代わり王子にご用心
「マリアさんが……カイ王子と!?」
無意識のうちに声に出してしまって、ハッと口を手で覆う。チラリとシャワールームを見れば、中の人はまだ出ていない。
(……にしても。どういうこと? マリアさんは高宮さんと相思相愛じゃなかったの?)
高宮さんは寝言でも彼女の名前を呼ぶほど、彼女の載ってるドイツ語の雑誌を買い集めるほど、好きなのに。
マリアさんはもうとうに高宮さんへの気持ちが無くなっている……ということ?
(……そんなの酷すぎる)
高宮さんがどれだけ彼女をいとおしく想っているのか、この2ヶ月で嫌というほど思い知らされてきたのに。
当の本人である彼女には、別の恋人がいるだなんて。
(……高宮さんはまだ知らないのかもしれない。だったら)
知らせるわけにはいかない。傷ついて欲しくないから……と考える私は甘いのだろうけど。
片想いのつらさを、高宮さんまで味わって欲しくない。こんな切なくやりきれない、苦しい思いは私だけで十分だ。
(そうだ! 藤沢さんがマンションにいるなら、電話でマリアさんと話すことができるよね。私の方から高宮さんのことをお願いしてみよう。もう一度彼とのお付き合いを考えてくださいって)
そうと決まれば善は急げとばかりにアドレス帳から藤沢さんの電話番号を呼び出す。
今、まさに発信ボタンを押そうとした時。シャワールームのドアが開いたけど。
そちらから出てきたのは、銀色の髪とブルーグレイの瞳を持つ長身の男性だった。