身代わり王子にご用心



「あ、うん……桜花はドライヤーが嫌いだったから、こうしてタオルドライするのは私の役割だったな」


まさか、高宮さんとこんな穏やかな会話が出来るなんて。思いもよらなかった。


今の今まで彼が私個人に関して興味を持つそぶりなんてなかったし。私も自分からべらべら話すのは躊躇われたから。


高宮さんのことは知りたいと思ったけど、彼に訊くのは憚られたし。ましてや無遠慮に周りに訊くのはどうかと思えて。結局、彼のことは桂木さん辺りから聞いた程度の情報しか知らない。


だから、どことなく彼が日本人離れした美貌を持っていたとしても。生まれや家族に関してはほとんど知らないに等しくて。


ましてや彼が自分から話してくれる時が来るなんて。あり得ないと考えてたのに。


「……オレも……ドライヤーは好きじゃない。母上と同じに」


まさか……彼が。


「あの人工的な熱が嫌なのは、たぶん遺伝もある。高宮のおじい様も嫌いらしいからな」


自ら話してくれるなんて。何の奇跡が起きたのだろう。


「高宮の……おじいさま?」

「……ヴァルヌスの現国王の妹に当たる王妹のファルカ。彼女は高宮家の前当主に嫁ぎ、長女の弥生(やよい)と長男の雅史(まさし)を産んだ。
雅史は知っての通りに、高宮の現当主で雅幸の父。
弥生は現国王の一粒種であるエルマー王子に嫁ぎ、カイ王子の母となった」


高宮さんの説明が……申し訳ないけど、ややこしくて頭の中でこんがらかる。


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