身代わり王子にご用心
桜花は可愛らしくて気配りが上手で、明るく誰とでも仲良くなれる。勉強も出来てスポーツも得意。クラス委員長をするような、責任感がありしっかりした妹。
当然のようにモテたし、友達も多かった。
中学二年頃だっただろうか。
家でご馳走を用意して待っていた私に、桜花から連絡があったのは。
『ごめんね、お姉ちゃん。美穂ちゃんがお家でクラスの皆を招いてサプライズのお誕生パーティーしてくれるって。クラスのみんなが出てくれるから……それに……健太朗くんが、パーティーに出てくれるって。だから』
公衆電話から申し訳なさそうに、でもちょっと嬉しそうに家に電話してきた妹。以前から健太朗くんを意識してたのは知ってた。とは言うものの、流石に私が用意をしていると気が咎めたのだろうけど。
私は……
受話器をぐぐっと握りしめながらも、震える手を押さえて何とか明るい声を出そうと努めた。
「なに言ってるの! 桜花が謝る必要なんてない。そっかぁ……みんながお祝いしてくれるんだ。よかったね! 健太朗くんだって、きっと桜花を意識してると思うよ。きっとうまくいくって! 私のことは気にしなくていいから、目一杯楽しんでおいで」
わざと健太朗くんのことをからかえば、電話の向こうで真っ赤になっているであろう妹が想像できた。
『ありがとう、お姉ちゃん。わたし頑張るね』
それを最後に切られた電話は、無機質な音を繰り返すだけ。
ガシャン、と乱暴に受話器を置いた私は。テーブルを眺める。
休みを取って朝から頑張って作った桜花の好きなご馳走。
ローストチキン、クラムチャウダー、ポテトサラダ、BLTサンドイッチ。 二段重ねのホールケーキ。
そして、彼女に似合うと思って選んだ桜のチャーム。
(桜花は……もう、私なんて必要ないんだ)
食欲がなくなった私は、全てをお隣さんに差し入れして。
桜のチャームは、結局渡せなかった。