身代わり王子にご用心



高宮さんから出された言葉が信じられなくて、しばらく呆然とした。


それでも思考は彼の言葉を咀嚼し、理解をする手助けをする。じわじわと意味が頭に浸透していくにつれ、首を横に振った。

「そんなの……で、できない」

「なぜだ?」

「な……なぜッて」


そんなの、恥ずかしいからに決まってる。高宮さんからのキスだって恥ずかしいのに、自分から彼になんて。使いすぎた羞恥心が擦りきれそうだ。


「変わりたいなら、勇気を持て」


高宮さんのブルーグレイの瞳は、挑発的な光をたたえていた。


「自分の殻を破りたいなら、思い切ったことをする必要がある。やってみれば“案外こんなもの”と思うだろう。それが弾みになる」

「……でも」


案ずるより産むが易し、と諺にはあるけど。私が高宮さんにキスをすることで、何が変わるというのだろう?


躊躇いはあった。


怖さもある。


恥ずかしさに身悶えそうな気持ちも。


でも……


私も、変わりたいと願う。


思えば、高宮さんの辛辣な言葉は全て的を射てた。だからこそ胸に突き刺さって、後から深い影響を及ぼす。


……賭けてみよう。


高宮さんを、信じる。


だって……




私が初めて、好きになった人だから。




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