身代わり王子にご用心
じゃあ……
今朝までいたビジネスホテルは、安全性が高いホテルだったのかな。
……なんて考えただけで、今朝までの甘い時間を思い出す。
(う、うわぁ……な、なに思い出してんの。私ってば!)
カイの甘い囁きや逞しさ、巧みな動きを思い浮かべただけで。頭が爆発しそうなほど熱くなる。
絶対、耳どころか頭まで赤くなってる!
湯気が出そうなほど沸騰した頭を落ち着かせようと努めても。次々と浮かんできてしまう。
(あ~もうダメ!)
頭を抱えたまま、ソファの前にあるテーブルに突っ伏した。
「あらあら、気分でも悪いのかしら?」
テーブルが開く音がして、続いてスリッパを履いた軽い足音が近づいてくる。
聞き慣れない声だけど、透き通って綺麗だ。腕の間からチラッとそちらを見れば、視界に入ったのは見事なブロンド。それに青い瞳。
思わず、顔を上げてその人をまじまじと見てしまいましたよ。
「あの……まさか……マリアさん、ですか?」
「ええ、わたくしはマリア·フォン·ハイドリヒ。ご存知いただけたなんて光栄だわ」
お茶器の載ったトレーを持ってきた方が、まさか本当のマリアさんだとは思いませんでしたよ。
エメラルドグリーンのシフォンチュニックに、黒いタンクトップとブーツカットの紺色のスキニーパンツ。プラチナブロンドは緩く束ねられ、ナチュラルメイクでも美しさが際立ってる。
こんなに綺麗な人がいるんだ……と思わずため息を着いた。
「すごい……綺麗ですね」
「ふふ、ありがとう」
マリアさんは下手に謙遜したりせず、極上の笑顔をくださいました。